IMJが産学共同研究を続ける理由(後編)

前編では「サービスデザインの壁」のお話をさせていただきました。

とどのつまりは「西洋の文化モデルに依存するプロセスや手技法をそのまま持ってきたところで、日本で同じようにできるはずはない」というのがIMJの考えなのですが、この壁を打ち壊すための一つの迂回路として活用している「産学共同研究」についてご紹介したいと思います。

現在、公開可能な事例としては下記のプロジェクトがあります。

「埋もれた可能性を発掘」音楽体験の新たな価値創出 産学協同研究プロジェクトを実施|IMJ
https://www.imjp.co.jp/news-seminar/release/2015/0415/

こちらは、情報デザインの研究で有名な常葉大学(静岡県)安武研究室の協力のもと実施したプロジェクトで「CDその他、音楽を聞くことにお金を使わなくなった若者の間で、いま一体何が起こっているのか」をデザインリサーチにより探索することが第一の目的でした。

このテーマを「今はYoutubeなど無料のメディアが存在するから」という答えに導いてしまってはプロジェクトの意味がありません。私たちは、インタビューやエスノグラフィーなどオーソドックスな調査を繰り返し、音楽に感じている価値が今と昔では大きく異なっているのではないか、いわゆるアラフォー世代が思う「音楽」とは違う何かにビジネスの力点を置くべきではないか、といった仮説と解決策を大量に創出し、ビジネス的な成果を得たプロジェクトとなりました。

しかしこの産学協同研究プロジェクトの裏の目的は、実は「今どきの学生はこんなことを普通に学び、実践し、ユーザーの本質的な欲求に肉薄してくる。私達、古い社会人はこのままで本当に大丈夫なんだろうか?」という深刻な問題意識を利害関係者に植え付けること、そしてその結果得られた気付きが「こんなものはいままでのやり方ではとても作り出せない」という残念感を軽く味わっていただくこと、でした。

まだ学生であるとはいえ、サービスデザインを専門に学び研究している方々が本気でデザインリサーチを行うと、ユーザーから遠くはなれたところで事業設計をしている大人たちにはほとんど理解不能なインサイトが得られることがしばしばです。専門家としては「理解不能」であることも問いの質を計るうえでの一つの指標と見ることもありますが、残念ながら通常のビジネスの現場では「理解不能すなわち不要である」という判断がなされてしまうことが多いものと思われます。

しかし、この場合は不要であるとは絶対に言い切れない。なぜならそのデザインリサーチを行っている学生の方々が、専門家であると同時に「ユーザー自身」でもあるからです。これを簡単に無視したり、あるいは否定するということはすなわち「ユーザーを無視する」ことに他なりません。

この「利害関係のジレンマ」を作り出すことがこのプロジェクトの最大の前提条件であり、プロジェクト自体の納得性と説得性を増すための重要なカギとなっていたのです。そうでなければ、そもそもこのプロジェクトは受注すらできていなかったはずです。

いかに(クライアントに)不都合であっても、予測不能であっても、その事実に軸足を置いてビジネスを創っていかなければならないと思えるくらいの、ある種の「恐怖・切迫感」を感じていただき、そのための思考法・プロセスとしてサービスデザインが極めて有効であるとクライアントに思っていただくことが、このプロジェクトのゴールの一つでした。

文化や習慣のようなものは乗り越えることは非常に困難ですし、一見して打ち壊しようがないように思えます。しかし、まだ退路が他にあるから真剣に壊そうとしないのであって、退路の危うさを少しでも感じていただければいずれ壁を壊そうとするのではないか、という「プロジェクトそのもののデザイン」を適切に行ったことが、このプロジェクトの勝因だったのではないでしょうか。

西洋のモデルをそのまま持ってきても「文化の呪縛」があり上手くいかない

  1. 本記事のテーマである「産学共同研究を続ける理由」は、すなわち
  2. ユーザーかつ専門家である「情報デザイン系の学生」の存在が、大人の足元を危うくする
  3. その危機感が「文化の呪縛」から企業を解き放つ大きなきっかけの一つとなるこの3点である、ということになります。

実は他にも「学生の方々のゴール」があり、更には「IMJのゴール」も含めて三方良しのデザインができているからこそ産学共同研究プロジェクトが今も多く実施されているのですが、そのあたりの話はまた別の機会にお話できればと思っています。

それでは、また。

株式会社アイ・エム・ジェイ R&D室
マネージャー/リードストラテジスト HCD-Net認定 人間中心設計専門家
UX戦略およびサービスデザインにおける全工程的なコンサルティング、国内におけるサービスデザイン・プロジェクトの先進研究、手技法およびプロセスの開発を主な業務とする。